胎内記憶を前提とした出産・育児

胎内記憶を前提とした出産・育児

胎内記憶からわかるのは、胎児が優れた能力を備え、親の愛情と注目を待っているということです。妊娠がわかったらすぐにでも、胎児に対し一人前の存在として話しかけてください。

このことは母子の心理面だけでなく、身体面にも大きな影響を及ぼします。

妊娠初期、多くの妊婦が苦しむつわりは、そんなふうに胎児と妊婦のコミュニケーションが混乱している現象であるともいえます。私のクリニックでは、つわりがひどい場合は、特に胎児に意識を向けるようおすすめしており、効果を上げています。

胎児とコミュニケーションをとる方法として最も基本的な方法は、腹部に手を当てて胎児を意識しながら、優しく語りかけることです。子宮の中に超小型マイクを入れて音を拾うと、「早く出ておいで」と語りかける声も、かなり明瞭に聞こえることがわかります。

胎児はおなかの中で、周りの人たち、特に母親からの語りかけに耳を澄ませているのです。

なお妊婦の子宮1センチほど上のところに子のひらを当て、手を滑らせると、ひときわ温かく感じるところがあります。サーモスタットで計測すると明らかに温度が高くなっている箇所で、そこに胎児の心臓が位置しています。その部分に手を当ててやさしく語りかけるなら、胎児は敏感に愛情を感じとることでしょう。

しかも、ふだんから胎児の心臓の上に手を当てて、その感覚を覚えておくと、胎児が元気かどうか、ある程度推測することもできるようになります。

私のクリニックで「夜中から、なぜかおなかが張ってきたんです」と訴える妊婦の腹部に手を当てると、胎児の心臓に当たる部分が吸い込まれるように冷たく感じることがあります。そこで「昨夜、何か変わったことがありましたか」と質問すると、「そういえば、夫婦げんかをしました」という答えが返ってくることがしばしばあります。そんなときは、「赤ちゃんが怖がっているみたいですよ。赤ちゃんに怒っているのではないって、お話ししたほうがいいのでは」とお伝えすると、妊婦はハッとした顔をして腹部に手を当て、胎児に謝ってくれます。するとそれだけで、おなかの張りがおさまってくることも多いのです。

心理的トラブルだけでなく、実際に切迫早産になっているときも、胎児の心臓に当たる部分を冷たく感じることがあります。いわば胎児の喜びや悲しみ、健康状態を、温感で感じることができるのです。

妊婦、父親、家族、医師、助産師など関わる人は全員、妊娠がわかった瞬間から胎児を尊重することで、胎児の発育をサポートしてもらいたいと思います。胎児は母親の感情や思考を感じとっていますから、周囲の人々は母親がいかに妊娠期間を心地よく過ごせるかを最優先にする必要があります。

 

父親のサポート

分娩では、父親は一般に考えられている以上に、重要な役割を担っています。

日本では近年、父親の立ち会い出産が増えていますが、本当はお産に立ち会うだけでは不十分です。立ち会わないよりは立ち会ったほうがいいでしょうが、その場限りの体験になってしまっては、あまり意味はありません。

できれば妊娠中の早い段階で、一緒に健診に来てエコーを見るなど、胎児の存在を実感できる機会をもつといいでしょう。一般には、健診に父親がついて来ても、医師は母親と会話するばかりで、父親は無視されるケースも多々あるようです。けれど、妊娠中、父親をずっと蚊帳の外に置いておき、分娩が始まったときだけ「立ち会ってください」では、父親は戸惑うだけではないでしょうか。

私のクリニックには、健診のとき、夫婦そろって来る人がかなりいらっしゃいます。そこで私は必ず、健診に来た父親とコミュニケーションをもつようにしています。

「お父さん、ご質問ありますか」と尋ねると、初めての妊娠の場合は「お父さん」と呼ばれるのも初めてなので、父親は思わず笑みを浮かべます。そして一生懸命考えて、「そういえば、家内は腰が痛いって言っていました」などと教えてくれるのです。

すると、そばにいる母親も、父親の家族を大切にしている思いを実感して、明るい表情になります。そんなやりとりがあってこそ、父親は少しずつ、新しい家族をつくっていく自覚を育んでいけるのだと思います。

もちろん、父親にできることは、健診について行くことだけではありません。むしろ日々の関わりのほうがずっと重要であり、私は父親にこそ、積極的に母親のおなかに手を当てて、胎児に語りかけてもらいたいと感じています。

しかし父親は照れもあって、なかなか話しかけることができないようです。そこで活用できるのが、胎内記憶の存在です。

胎内記憶の証言によると、胎児は外の声に耳を澄ませています。そして、父親が頻繁に話しかけたり歌いかけたりしていると、「パパの声が聞こえた」ことを覚えています。そんな赤ちゃんは父親が大好きで、よくなつきます。母親より父親のほうがよく話しかけていると、「私はパパから生まれたの」と言う子どもまでいるほどです。

一方、赤ちゃんがかわいくてたまらないのに、抱っこしようとすると大泣きされるといって、困っている父親もいました。質問してみると、その父親は胎児にほとんど話しかけなかったことがわかりました。赤ちゃんは母親の声にはなじんでいますが、父親の声は意識的に語りかけられないと、よくわかりません。そんな赤ちゃんにとって、父親は見知らぬおじさんですから、怖くなってしまうのかもしれません。

健診でお会いする父親にその話をすると、たいていの父親は大慌てで、胎児への話しかけを始めてくれます。そして、父親のそんな姿を見ると、母親も幸せを感じて、心が安定するのです。

マタニティ期の健康状態や分娩には、母親の心理状態が大きな影響を及ぼすことがわかっています。精神的にリラックスしている妊婦は、免疫力が高く保たれるので、簡単には感染症にかかることがありません。また、血行もよくなるので、分娩が始まるといい陣痛がつきやすくなります。

母子の心身の健康のためにも、父親は胎内記憶を参考に、母子に好ましい環境内つくりに取り組んでいただきたいと思います。